全国のミトコンドリア病患者数について

ミトコンドリア病患の患者は全国で何名いらっしゃるのでしょうか。

気になってWEBで検索をしてみた方も多いはず。
そして「情報が出てこないなあ」としょんぼりされたのではないでしょうか。


厚生労働科学研究の「ミトコンドリア病の調査研究」でも、実態調査の難しさに触れられていました。

国内においてミトコンドリア病の患者数の厳密な実態調査は行われていない。
その理由は患者が多くの診療科に分散していること、診断基準が明確ではなかったことなどが挙げられる。
そのもっとも大きな要因は確定診断に必要な病理、生化学、遺伝子検査の専門性が高いことにある。

厚生労働科学研究(文献番号202111026A)「ミトコンドリア病、レット症候群に関する調査研究」から抜粋


ミトコンドリア病はさまざまな症状が全身に現れるため、確定診断が下りるまでに時間がかかることも珍しくなく、残念なことに別の病としてカウントされてしまっている場合も一定数あることを示唆しています。

ミトコンドリア病は5000人に1人の割合で発生する遺伝子病とも言われていますが、確定診断のミトコンドリア病患者数はどれほどいらっしゃるのでしょう。

今回はおおざっぱにはなりますが、いくつかの情報をもとに推定したいと思います。

具体的には「レセプト件数からの推測」「公費受給者人数からの推測」の2方法を使用します。

レセプト件数からの推測

レセプト(診療報酬明細書)とは、医療サービスの提供側が国に提出する明細書とお考えください。レセプトの中には診療や個人の情報が載っています。

レセプトの情報は、厚生労働省から提供されているNDB(匿名医療保険等関連情報データベース)から確認できます。

ただNDBは一般利用のハードルが高いので、厚生労働科学研究成果データベースから2020年度「ミトコンドリア病、レット症候群の調査研究」を参考にします。
こちらでは、最新ではないものの2018年度(2018年4月から2019年3月)のミトコンドリア病患者数がレセプトから算出されていました。

ミトコンドリア病、レット症候群の調査研究 | 厚生労働科学研究成果データベース
厚生労働科学研究成果データベース MHLW GRANTS SYSTEM
mhlw-grants.niph.go.jp

ミトコンドリア病患者数(2018年度)

総数0~
9歳
10~
19歳
20~
29歳
30~
39歳
40~
49歳
50~
59歳
60~
69歳
70~
79歳
80~
3,629648477352432496431377302114
割合18%13%10%12%14%12%10%8%3%
厚生労働科学研究(文献番号202011051A)「ミトコンドリア病、レット症候群に関する調査研究」から抜粋

レセプトからの患者数の抽出条件は下記です。

  • 入院経験のある患者のみをリストアップ
    (外来診療のみではミトコンドリア病「疑い」が多数含まれるため)
  • 対象は「ミトコンドリア病」と「レーベル病」の患者
  • NDB では全額公費で負担される患者のレセプトは収載されない
    =生活保護受給者は含まれない。ただ生活保護の割合は少ないので影響は少なそう。
  • 転職や引っ越しなどで保険者証が変わった場合は2重カウントされる

割合を見ると、未成年者が全体の約3割を占めていますが、もっと多いイメージがありました。この数値は診療ベースのため、発症年齢とは異なることに注意が必要です。
なお年齢階級の中央値は30歳~39歳となります。

2019年3月時点ですが3,629人がミトコンドリア病として診療を受けていたということが分かりました。

同資料に都道府県別の人数も出ていたので、併せてご紹介します。

都道府県別患者数(2018年度)

北海道169埼玉県125岐阜県44鳥取県15佐賀県23
青森県22千葉県162静岡県86島根県22長崎県50
岩手県43東京都477愛知県174岡山県55熊本県45
宮城県79神奈川県218三重県39広島県73大分県39
秋田県19新潟県56滋賀県53山口県24宮崎県40
山形県29富山県30京都府86徳島県16鹿児島県136
福島県33石川県36大阪府263香川県19沖縄県68
茨城県87福井県21兵庫県162愛媛県42
栃木県56山梨県13奈良県44高知県18
群馬県54長野県52和歌山県29福岡県183
厚生労働科学研究(文献番号202011051A)「ミトコンドリア病、レット症候群に関する調査研究」から抜粋

都道府県別人数は以下のような注意と推測が載っていました。

    • 医療機関の住所から都道府県の患者数を抽出
      (NDBは個人情報が削除されているので、患者のお住まいは不明)
    • 人口割合からみて鹿児島県と沖縄県が多い
      理由不明。地理的要因?
    • 人口割合から見て埼玉県は少ない
      医師不足のため、東京都や千葉県に流入の可能性
      ※埼玉県は人口 10 万人あたりの医師数が 176 人で全国最下位(平成 30 年度)

他県への病院で診療を受ける場合もあるにせよ、おおよその都道府県比率が分かりましたね!
最新の情報ではないのが残念ですが、おおよその人数感は掴めるかと思います。

公費受給者人数からの推測

次に公費受給者からのミトコンドリア患者の人数を見ていきたいと思います。

まず公費には「指定難病受給者証」と「小児慢性特定疾患」の2種類があります。
余談ですが、上記2つの違いは年齢と思われがちですが、少し違います。
「小児慢性」は0歳~19歳までの制限がありますが「指定難病」には年齢の制限はなく、未成年でも「指定難病」公費を受給している場合があります。

様々なケースがあっての判断になりますが、とはいえ「小児慢性」では入院中の食費負担が半額となるので、未成年の場合は「小児慢性」を利用されている場合が多いと思います。
詳しくはこちらを参考にしてください。

指定難病と小児慢性特定疾病②~各制度の内容|リンパ管疾患|一般・患者の皆さま|ノーベルファーマ株式会社
指定難病と小児慢性特定疾病②~各制度の内容についてご紹介しているページです。ノーベルファーマの医薬品・医療機器が対応している疾患について、わかりやすく解説しています。
www.nobelpharma.co.jp

公費受給者数の確認には「e-Stat」を利用します。
「e-Stat」は政府統計のポータルサイトで、これに限らず何かと調べものが捗ります。

政府統計の総合窓口
政府統計の総合窓口(e-Stat)は各府省等が公表する統計データを一つにまとめ、統計データを検索したり、地図上に表示できるなど、統計を利用する上で、たくさんの便利な機能を備えた政府統計のポータルサイトです。
www.e-stat.go.jp

上記ページから「指定難病受給者証」の受給者数を疾患別に調べることができました。

ミトコンドリア病・レーベル病の受給者数(2022年度)

総数0~
9歳
10~
19歳
20~
29歳
30~
39歳
40~
49歳
50~
59歳
60~
69歳
70~
74歳
75~
1,764731245276391351255102106
2022年度:衛生行政報告例 / 令和4年度衛生行政報告例 / 統計表 / 年度報
「第10章 難病・小児慢性特定疾病 1 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数,年齢階級・対象疾患別」より抜粋
    • 「小児慢性特定疾患」は含まず
       疾患別の受給者情報が出ていないため除外
    • ミトコンドリア病およびレーベル病の合計数で算出

未成年の数字がごくわずかなのは「小児慢性」公費が含まれていないためです。
小児慢性のミトコンドリア病受給者数は公表されていませんが、レセプト件数の未成年者数の割合は31%でした。
同割合で計算すると「難病公費」「小児慢性構成」の合計受給者数は2,550人ほどになります。

ただそれにしても、レセプトからの件数から見て公費の受給者数が少なく思えます。
※レセプト件数のミトコンドリア病患者数は3,629人(2018年度)

ちなみに同2018年度の難病受給者数は1,504人でした。
ここに未成年の受給者数を31%と仮定しても約2,200人。
レセプト件数と約1,400人ほど数値のズレがあります。

このズレは、レセプト件数の引用元である「ミトコンドリア病、レット症候群の調査研究」でも触れられていました。

本研究で推定された有病者数の半数以下であった。
もちろん受給者証の交付はミトコンドリア病の患者個々人における臨床的な重症度や必要性において判断されるべきであり,この結果は一概に受給者証交付率の低さを反映するものではない。

しかし,わが国では臨床的な診断基準とほぼ同様の基準でミコンドリア病の難病認定が行われていることを考慮すると,ミトコンドリア病と診断されているにもかかわらず,受給者証の申請を行わない患者が過半数存在することは注目すべき点と考える。

わが国の難病対策委員会(厚生労働省)によると,指定難病や小児慢特定疾患の助成事業において,患者または介護者(小児の場合は多くは親)が,受給者証の申請にあまり経済的なメリットを感じないと判断した場合は,申請を見送る事がしばしばあることが指摘されている。
本研究で推定された患者数と受給者証所持者数が乖離していることは,一部はこの現状を反映したものであるかもしれない。

公費申請をしない選択肢を取られる場合もあるようです。
県や市の福祉助成が手厚い場合などが考えられそうですね。


両方の数値から近似値を推測

レセプト件数の実数が実態に近いと思われますが、2018年度の情報なので少々古いのが気になります。

一方の公費受給者からの数値は、2022年度の受給者人数が公表されていますが「小児慢性特定疾患」の疾患別人数は無く、ミトコンドリア病であっても公費受給の申請をしているとは限らないようです。

年度レセプト件数公費受給者数
2022年度??約2,550人
2018年度3,629人約2,200人
      • レセプト件数の未成年者割合から未成年の割合を31%と仮定し、難病公費と小児慢性公費の総数を算出
      • 患者数は「ミトコンドリア病」と「レーベル病」の合計

上記の表を見ると公費受給者数は5年で116%増加(350名)しています。
レセプト件数からの患者数も同じ増加比率だと想定すると、2022年度のミトコンドリア病患者数は4,209人と推測されます。

とはいえ2018年と現在では、確定診断が下りるまでの「病理、生化学、遺伝子検査」も進んでいます。
2023年現在では遺伝学的検査も保険収載されましたので、確定診断までの道のりも容易くなるのではと期待できますね。
診断がつかずに悩まれる方が1人でも少なるなるよう願っています。

保険収載されている遺伝学検査(日本人類遺伝学会)
本サイトは、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業(平成30年度〜令和2年度)「難病領域における検体検査の糖度管理体制の整備に資する研究班」が構築した内容を日本人類遺伝学会が受け継ぎ、運用・公開しています。
www.kentaikensa.jp