「オールジャパンミトコンドリア病患者家族会」トピックスのまとめ

 9月20日(月)感動のうちにオールジャパンミトコンドリア病患者家族会が終了しました。前半部分の専門医の先生方、研究者、製薬会社、国際患者会組織の講演くださった
トピックスのまとめをみどりの会のメンバーが文字にしてくれました。お疲れ様でした。
 以下、掲載させていただきます。

 ファシリテータは村山圭先生でした。チャットやQ&Aと並走しながらのファシリテーションは、知識を織り交ぜながら、なめらかで他の先生との呼吸もピッタリ。時間もお見事ぴったりでした。

  • 小坂 仁先生 
    自治医科大学小児科学教授
    「治験準備中のLeigh脳症の治療薬(アポモルフィン)について」
    アポモルフィンの治験前の薬効、安全性等研究を3か年計画で行っています。
    パーキンソン病では投与了承済みの薬である。Leigh脳症やmelasの患者の皮膚繊維芽細胞は酸化ストレスに侵されやすいが、アポモルフィンを加えるとATPが上がり、ミトコンドリアの状態が良くなる。今から4年目、5年目位の治験実施を考えており、リー脳症患者から行う予定。(melasにも効果があると考えられる)
  • 大竹 明先生
    埼玉医科大学倫理審査委員会委員長、小児科・ゲノム医療科・難病センター教授
    「ミトコンドリア病の治療:世界の最新治験情報を中心に」
    ○日常の生活について(患者、患者家族に覚えておいて欲しいこと)
    ①適切なエネルギー源、水分、電解質の摂取
    ②糖質制限と脂質優先摂取
    ③消費エネルギーの抑制、発熱、けいれんの処置
    ④Lカルニチン
    ⑤ビタミンカクテル
    ⑥ミトコンドリア毒を避ける
     (バルプロ酸、ビボキシル基含有抗生剤 テトラサイクリンクロラムフェニコールなど)
    なぜ脂質優先が良いのか
    1)ミトコンドリア病は細胞質のNADH上昇が諸悪の根源
    2)グルコースは細胞質のNADHを増やす
    3)脂肪(酸)は、ミトコンドリアのNADHを増やす→安全
    ○治験について
    ミトコンドリア病は希少疾患でありながら症状や検査所見も多彩で、根本治療法の開発がとても難しい分野である。今回は①~③についての最新の進歩を紹介しつつ、それらを応用した世界と日本の最新治験情報を紹介したい。
    <国際治験情報>
    海外では、酸化還元を治すもの、細胞膜の安定化をするもの、遺伝子治療等多種多様な治験が行われている。しかし、最終段階までいったのはレーベル病に対するイデベノンのみである。(EPI743が今のところ有望か?)その理由として以下の3点が挙げられる。
    ミトコンドリア病の新規治療法開発の壁として
    ①病気の自然歴データの不足 (国際レジストリが必要)
    ②病状を反映する良いバイオマーカーの不在、
    ③病状評価のための良い評価スケールの不在、
     <日本国内の治験情報>
    アポモルフィン:臨床治験前
    MAー5:臨床治験前(基礎段階であるが有望)
    EPIー743:メラス・リー脳症?
    5ーALA:治験第3相 
    5-ALAについては、残念ながら、今の段階で実薬グループとプラセボグループからの有意差認められず、正式な承認までにはまだ時間がかかりそうである。
  • 後藤雄一先生
    国立開発研究法人 国立精神・神経医療研究センター メディカル・ゲノムセンター長
    『ミトコンドリア病ハンドブック(第2版)』発行について
    内容:2012年5月に初版を発行して、冊子体の配布とともに難病情報センターのミトコンドリア病のサイトにてダウンロード版を提供してきた。第2版では、内容を刷新し、診断基準、栄養法や治療法、遺伝学的用語、福祉制度、患者レジストリーなどの情報を変更・追記した。その内容を簡単に紹介する。冊子でも、ネットでも見られるようにしていく。治療法の変化もあり、イラスト付きでだれでも見やすい入門的ハンドブック作成中。第2版も、冊子、ダウンロード版を提供する。
     治療法の変化、進歩
     代表的な医療費助成制度
     遺伝学的用語の改訂
     新規突然変異の解説追加
     (すべてが母系遺伝ではなく、突然変異も多く見つかってきたことも記載。少なくとも、出生時200人に対して一人は、ミトコンドリアDNA変異を持っている。変化が起こる確率は10万人に107人)
     ゲノム時代の難病医療体制
     (最新治療ゲノムなどの研究も進む昨今、レジストリー(情報提供)が大切)
  • 田中雅嗣先生
    イムス三芳総合病院 臨床検査科・順天堂大学 神経学
    「ピルビン酸ナトリウムについて」
    リー脳症では大脳基底核や呼吸中枢の神経細胞は常に活動しているので、ミトコンドリア病ではエネルギー不足になりやすい。神経細胞の障害が進行する前に、早く、ピルビン酸ナトリウムを入れることが大事である。
    ○ピルビン酸が不足すると、エネルギーの危機に陥る
    ○細胞内のNAD⁺の欠乏と、NADHの過剰解消
    ○易疲労を解消
    *治験は終了した。症例が少なく、十分なエビデンスができていない
    *QOLを指標にする評価方法があればよいが。
    (QOLを指標にする評価方法で再度治験を行う必要があるが、国の予算が途絶えているので、製薬会社の協力や更に資金を得ることが今後必要になる)
    *乳酸とピルビン酸二つの組み合わせは重要と考えている
    *アメリカの教授が、血中にできた乳酸をピルビン酸に変えてまたそれを体内に戻す人工酵素を作っている。乳酸が高いことはよくなく、ピルビン酸を供給することはよいことだということを理解し基礎研究を行っていると思う
  • 三牧正和先生
    帝京大学医学部小児科 主任教授
    「ミトコンドリア病のレジストリ(患者さんの登録制度)のご紹介」
    ○新しい治療法が開発され、臨床試験、治験が始まったとき、患者にその情報を届けることをスムーズにすること。
    ○対象となる患者を速やかに把握すること。
    レジストリシステム(患者登録システム)とは双方の流れをスムーズにするためのシステムである
     J-MOバンク→新生児・小児期発症
     Remudy(レメディ)システム→メラス・マーフ・CPEO
    システム登録には基本的には遺伝子が確定しているミトコンドリア病(MELAS,MERRF,CPEO)の方が登録できる。Remedyのサイトでダウンロードできる医師同意書等の書類を主治医に記載してもらい、登録センターに送付する。(遺伝子が確定していないが臨床的に明らかにその病気であると診断されている場合は要問い合わせ)
    *レジストリーシステム(患者登録システム)の大きな目的は、しっかりとした登録システムを構築して治験に備えること、患者の実態を把握してQOLの向上に努めることである。
  • 木下(きした)善仁先生
    近畿大学理工学部生命科学科講師
    大学院総合理工学研究科理学専攻遺伝カウンセラー養成課程担当
    「ミトコンドリアゲノムをターゲットにした治療法開発の現状」
    ○遺伝子治療
     変異が起きたミトコンドリアDNAに正常な遺伝子を入れ、機能を回復させるもの。
    ○ゲノム編集
     変異したミトコンドリアDNAを切断し他物を正常な遺伝子に書き換えるもの
    遺伝子治療、ゲノム編集が一緒に使われる行われることもある。
    現在実際行われているものは、レーベル遺伝性視神経症で、アデノ随伴ウイルスを注射で注入し遺伝子を戻すと、視力回復が見られる。
    ゲノム編集に関しては、ヒト細胞やマウス個体レベルでの検証であり、ヒトへの応用はまだこれからである。しかし、化合物を使ってミトコンドリアの変異DNAを減らすという研究なども出てきており、この先端治療は実用化まで時間はかかるが、期待してよい治療法である。
  • 長瀬逸郎様
    アステラス製薬株式会社
    プライマリ・フォーカス・リード(Mitochondria)部長
    ミトコンドリア・バイオロジーに関連した研究開発を意欲的に進めており、ミトコンドリア病もそのターゲットである。最近では、Minovia社とのミトコンドリア細胞医療に関する戦略的提携契約を締結した。
    ◎科学と技術を融合した新しい治療法の開発アプローチ
     ○ミトコンドリアのストレスに効くもの
     ○NAD増強
     ○遺伝子調整 ミトコンドリアの量を増やす
     ○ミトコンドリアのたんぱく質を調整する
    方法
    ミトコンドリア細胞医療
    生きたままのミトコンドリアをドナーから取り出し、アステラスで研究開発したユニバーサル??ドナー細胞技術で免疫反応を回避しながら、障害を受けた組織に正常なミトコンドリアが輸送されるという生理現象を用いて正常なミトコンドリアを体細胞に移植する、という技術に挑戦したい。現在アメリカで臨床試験を行っている研究が日本でも取り入れられるようにしていきたい。
  • 村山圭先生
    千葉県こども病院・遺伝診療センター長 代謝科部
    「オールジャパンでのミトコンドリア病の診療基盤構築 ~力をひとつに~」
    診断→治療→生活向上
    AMED(エーメド)の診察基盤を作り、病態解明、創薬につなげるための臨床試験をしっかり行う。
    ミトコンドリア病診療マニュアル 2022年版制作中!
    ・Leigh脳症の遺伝子型と予後
    ・ミトコンドリア肝症の臨床像・遺伝学的特徴 など
    2014年に結成した村山班は、多様なミトコンドリア病の遺伝子型/表現型/自然歴などをガイドラインに反映させ、エビデンスを創出。
    自治医大では、ミトコンドリア病でもIPS治療研究がすすめられている
    データベース、レジストリーをもとに、国内・海外連携を取りながら、ミトコンドリア病の診断、解明治療のネットワークを作っていく。
    オールジャパン 力を一つに!
    決して一人じゃないということです。
  • フレーザー佳奈さん
    Mito Foundation(オーストラリア)マーケティング・コミュニケーション担当
    1.Awareness WeekということでInternational Mito Patientの活動
    2.Mito Foundationとしてオーストラリアの現状、患者さんの活動(メディアや政治家への働きかけなど)や交流(オンライン勉強会など)

    Mito Foundation(マイトファンデーション)
    専従職員20名が在籍。ほかボランティア多数
    設立11年目
    勤務スタッフが20名程度、プラス多くのボランティアで活動中
    サポート  患者、家族への情報提供
    政府から援助を受けて看護師の資格のあるスタッフが個々の患者に必要な政府の制度や臨床試験を案内
    勉強会、オンライン交流会などを提供
    代弁活動 すべての患者が必要なケアやサービスを受けられるように政府に働きかける。
    現在、法律の改正(親からのDNAの異変が遺伝しないような特別な体外受精の認可)を求めている。スタッフ、患者(家族)が地域の政治家に働きかけたりSNSで活発に発信したりしている。
    研究 治療に向けた研究開発への資金提供
    Leigh脳症国際団体の立ち上げ 等
    寄付金 チャリティーイベントの開催(2019年には延べ1万8千人程が参加し3億円以上の寄付金が集まった)
    季節ごとのキャンペーン、コロナ禍ではバーチャルイベントなども開催している。
    教育 医師向け、子ども向けプログラム、一般の学校で使えるような教材の提供
    IMP(International Mito Patients)
    設立10周年の国際的な団体
    国境を越えて患者のサポートや資金集め、啓蒙活動を共に行う。
    アメリカ、カナダ、ドイツ、スペインなど16団体が参加。
    情報提供、それぞれの国内での認知度を高める活動をしたり
    医師、研究者、製薬業界との関係を調整したりしている。
    また、世界中どこの患者でもサポートを受けられるようにメール等での相談を受け付け、その国で受けられるサービスを探す手伝いをしている。
    ミトコンドリア病の世界組織IMPの呼びかけにより、ミトコンドリア病啓発週間が9月19日(日)から25日(土)まで、世界各地で行われます。
    日本では9月25日、MCMの会世話人山田さんの働きかけで横浜市開港記念会館の緑のライトアップが執り行われることになりました。

以上